コラム

「嘆願書」という制度

全般

納税者に税務上の不利益が明らかに生じているのでなんとか救済したいが、通常の手続きではその不利益は取り戻せない・・・、という事例が生じることがあります。そうしたときにその不利益を取り戻せるかどうかを慎重に吟味し、不利益の回復が可能であると判断したときには、「嘆願書」を税務署に提出するケースがあります。納税者側からの正式な(適法な)手続きはできないけれども、税務署長の職権を発動してもらいその権限により納税者の権利を救済する、というものです。

平成23年度税制改正前は、誤計算等で納税し過ぎた申告を訂正するためには本来の申告期限から1年以内にその是正手続き(「更正の請求」といいます)をする必要があったのですが、税制改正後は1年が5年に延長されたので「嘆願書」の出番はめっきり少なくなりました。すなわち、納めすぎに気づくタイミングが当初申告から2年後、3年後といった場合であっても、改正法では手続き期間が5年と長期化したので「適法に」更正の請求手続きを踏むことが出来る事例が増え、納税者の税額還付を受ける権利は多くの場合救済されることになったのです。

それでもなお、「嘆願書」の出番がないわけではありません。
たとえば相続税の局面で嘆願しなければならない場面が起こり得ます。

財産が未分割のまま法定相続分にあたる金額を基準にして相続税を納税していたのだけれども、その後財産が分割された結果、当初(法定相続分)よりも実際には取得財産が減少、これに合わせて相続税額も減少することがあります。こうしたときに、法律では、遺産分割協議が成立した日から4ヶ月後の応当日までに「更正の請求」をしなければならないと定めていますが、うっかりこの期限を徒過してしまい、あるいはこうした税金を戻す手続きがあることを知らずに納めすぎた税金を取り戻せなくなるケースが起こり得るわけです。
このケースでは分割協議成立日から3年以内であれば、「嘆願書」を出すことで税金はほぼ間違いなく還付されると考えられます。

なお、税理士が「嘆願書」を出すべき事案であるにもかかわらずそれを怠り、その結果依頼者(お客様)において税金の還付金が受け取れないという結果を招いた場合には、その依頼者が被った損失を税理士が賠償しなければならない場合もあり得るでしょう。

私にとって「「嘆願書」を出すべき事案かどうか?」については、次のように心掛けています。

まずは「お客様の過去の税務申告等で不利益が発生したことがあるか?」を常に心がけて探します。基本的には、初めてお会いしたお客様についてはお打合せの過程で必ずこの問いを心に期して対応しています。当然ながら顧問先のお客様には常日頃の注意義務を払うことでそもそも不利益が生じないようにしていますが、稀に不利益が判明したときには直ちに更正の請求手続きを行います。話はそれますが、更正請求とは反対に追加納税が必要だと判断する事態に遭遇したときには、お客様へ速やかに報告し税金を追納する手続き(修正申告)をお願いすることにしています。蛇足ながら弊社では適時に行う「更正の請求」や「修正申告」を通じてお客様へ安全安心をお届けするとのコンセプトで業務に臨んでおりますが、世間一般の税理士事務所の中ではどうやら弊社の考え方は少数派のようです。

依拠する法律がないながらも実務上慣例化されている「嘆願書」の制度ですが、まったくもって関連法律がないというわけではありません。官公署へ国民がお願いする行為自体の権利、そして官公署の誠実処理義務は、下記の法令を見れば明らかですね。

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日本国憲法第16条 請願権
何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、 平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
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本条を受けて請願権に関する手続きは6条からなる請願法に定められています。

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請願法

第一条 請願については、別に法律の定める場合を除いては、この法律の定めるところによる。
第二条 請願は、請願者の氏名(法人の場合はその名称)及び住所(住所のない場合は居所)を記載し、文書でこれをしなければならない。
第三条 請願書は、請願の事項を所管する官公署にこれを提出しなければならない。天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない。
② 請願の事項を所管する官公署が明らかでないときは、請願書は、これを内閣に提出することができる。
第四条 請願書が誤つて前条に規定する官公署以外の官公署に提出されたときは、その官公署は、請願者に正当な官公署を指示し、又は正当な官公署にその請願書を送付しなければならない。
第五条 この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。
第六条 何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
附 則
この法律は、日本国憲法施行の日から、これを施行する。
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